林美脉子『エフェメラの夜陰』

エフェメラギリシア語が語源で、一度しか存在しえないつかの間ではかないものの意

註 P66

丸善の本棚で出会うまで、私は林美脉子という人の名前すら知らなかった。

このタイトルと、この美しい青い装丁でなければ手に取ることもなかったように思う。

表題作は

アララ鸚鵡が啼くとポロロ族は輪廻のひと巡りを終わらせる

というレヴィ・ストロース『悲しき熱帯』の引用で始まる(『悲しき熱帯』はまだ読んでいない。悲しい)。そうして、

未明

 

静まり渡る病房の森に 消えていく生命(いのち)の熱量を密かにさぐる 物理の情をわたる自今の闇深く 冷たく密告されてくる裸形の死

と続いていく。「おいでおいで」という言葉が繰り返され、誰かが死へと招いているようだ。

この不穏さは消えることはない。

最後の詩に「ビッグフリーズ」という言葉が出てきたので調べてみると、

kotobank.jp

ということらしい。

この詩集全体に満ちた死の空気は、どうやら宇宙が絶対零度となったためなのかもしれない。

繰り返し出てくるリルも「表象可能な次元のどこにも属しておらず 超弦世界の十次元閾値を超え」た存在であり、この詩人の描く世界のスケールの壮大さに眩暈さえ覚える。

 

林美脉子について調べていると、現代詩手帖SF×詩特集に林美脉子論が載っていたり、川口晴美(『ガール・イン・ザ・ダーク』に作品が選ばれていた!)が読み応えのあるSF詩として紹介していたり。

他の詩集も読んで、林さんの宇宙をもっと冒険したいと感じた。